大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)17号 判決

原告 船津喜一

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十七年抗告審判第一、二九九号事件について、特許庁が昭和二十八年五月三十一日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように陳述した。

一、原告は、昭和二十七年四月十八日、「主婦の友」の文字を縦書にして構成されている原告の商標について、第四類の石鹸を指定商品として、登録の出願をしたところ、(昭和二十七年商標登録第九〇二四号)拒絶査定を受けたので、昭和二十七年十二月二十二日これに対し抗告審判の請求をしたが、(昭和二十七年抗告審判第一、二九九号)特許庁は、昭和二十八年五月三十一日「請求人の申立は成り立たない。」との審決をなし、右審決書の謄本は、同年六月十八日原告に送達された。

二、右審決理由の要旨は、次のとおりである。

原告の右商標は、東京都千代田区神田駿河台南甲賀町十四番地株式会社主婦の友社の著名商標「主婦の友」と類似しており、同社においては、原告の商標の指定商品と同一の商品の取り扱つている。故にもし原告の商標をその指定商品に使用するならば、世人をして恰も同社の取扱にかかる商品であるかの如き誤認を生ぜしめるおそれがある。よつて原告の商標は、商標法第二条第一項第十一号の規定によつて、その登録を拒否せざるを得ない。

三、しかしながら、右の審決は、次の理由によつて違法である。

(一)、「主婦の友」という商標が、東京都千代田区神田駿河台南甲賀町十四番地株式会社主婦の友の著名商標であるのはその指定商品である雑誌についてのみであつて、「主婦の友」の商標によつて、何人でも婦人雑誌を想起するが、これによつて石鹸を連想する者はない。婦人の代表的雑誌といえば、「主婦之友」を意味するほど、同誌は雑誌界のは者であるが、これがため雑誌本来の使命を忘却して、その名称のみを遊離し、これをあらゆる商品についても、悉く著名商標なるかの如く歴史付けて、その権利範囲を超拡張解釈してはならない。かくては商標法の類別規定は有名無実となり、権利の濫用ともなり、憲法に違背し権利の保護は、却つて独占的権利の偏重を来す虞がある。何となれば、ある名称を一商品につき周知せしめれば、その登録のいかんを問わず、商標法の商品全類別にわたり、他人の登録を排斥し、永遠に無登録で全業界に君臨し、堂々かつ歩し、更に自らこれが登録を欲すれば、随時意の儘に登録することを得、商標法を無能ならしめ、民法第一条、憲法第十二条にも違背して、その止まるところを知らないからである。

(二)、前記会社の商品雑誌と原告の指定商品石鹸とは、その使用の目的を異にし、また同一店舗において普通取り扱われないことは明白であつて、本来油脂化学工業部門に属する石鹸と、図書出版業部門に属する雑誌とは、その製造から販売に至るまで全くその軌を異にし、これが取引者及び需要者は根本的に異るものであるから、その出所について、混同誤認を生ずる虞は少しもない。そしてこのことは、特許庁抗告審判審決が、雑誌「主婦之友」が存するにかかわらず、第四十五類即席カレーの素を指定商品として「主婦の友」の商標が登録すべきものとせられたる(昭和十六年抗告審判第一、八一二号事件)に徴しても明らかである。(なお大審院昭和十五年三月三十日、昭和三年三月二十九日各判決参照)

(三)、いやしくも取引上著名な商標を以て、図書の出版発行、販売を業とする者は、多くこれを専業とし、石鹸の製造販売を兼業としないのが通例である。従つてたとえ一、二の雑誌社において石鹸を取り扱う者があつても、それは異例のことで、これを以て一般世人が、雑誌社が石鹸をも兼業とするものと誤信すべき情況によつたものとすることはできない。主婦之友社で取り扱つている石鹸は、他店の製品ばかりで、商標として「主婦の友」を表記したものはなく、しかも極めて少量が他の雑貨の間に介在し、わずかに来客の応急の用を便ずるに過ぎず、石鹸に関しては、主婦の友社は、業界はもとより、社会的にも何等顕著な地位を有しない。

(四)、およそ商品の誤認混同を生ずる虞があるというには、その著名商標の商品と、その虞のある商品との間において、必然的な関連性のあることが、社会的に顕著でなければならない。単に他店の製品若干を顧客の応急の用を便ずる程度に、売店内に配置せるが如きを以つて、この重大な見解を決定することは甚だ危険である。現にクラブ化粧品の外に権利者を異にするクラブの文字を有する幾多の雑誌が存在し、また文芸春秋社の商標「オール読物」に対し、他人において登録出願した「オール読切」なる商標の出願公告がなされ、しかも何等混同誤認の問題が起つていない。ひとり主婦の友に限り、偏重的の取扱をなすべきではなく、商標法類別を軽視し、客観的に何等の関連性がない雑誌の商標権を、石鹸の商標にまで及ぼし、徒らに後願の除を塞ぐのは、憲法上にも適正を欠くものである。

なお原告の商標は、主婦が日常親しく石鹸を使用すること恰も親しき友人の如くなるにより、これを採択したもので、どの点からいつても原告の商標法第二条第一項第十一号の規定に該当するものでない。

第三、被告の答弁

被告代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一、二の事実は、これを認める。

二、同三の主張を否認する。

審決の趣旨は、主婦之友社が、原告の商標の指定商品である石鹸と同一の商品すなわち石鹸を取り扱つているから、原告が若し本件の商標を右の指定商品に使用するならば、世人をしてあたかも、同社の取扱にかゝる商品であるかの如き誤認を生ぜしむるおそれがあるというのであつて、原告のいうように雑誌と石鹸とが類似の商品であるとしたのでない。

主婦之友社は元来、石鹸を指定商品として、登録第二三二二七七号商標「主婦の友」を有していたが、昭和二十七年二月十九日その期間が満了したのに、更新の手続を怠つたため、右商標権は消滅した。そこで同社は昭和二十七年九月二十二日同一商標について登録を出願し、目下出願公告中であつて、このことからしても、同社が将来において商品石鹸について、商標「主婦の友」を使用する意思のあることは明白である。

また同社は、雑誌以外に、図書、繊維製品一般、薬品、化粧品、家庭用品、文房具、菓子、食料品、裁縫用品類を取扱販売品としており、石鹸の販売業は、大正十四年同社屋新築以来引き続いて行つており、昭和五、六年頃からは、石鹸販売に際し「主婦の友」の商標を石鹸自体に使用し、昭和十四、五年頃石鹸が統制品となつたので一時的に中止したが、石鹸の販売は、将来も継続する意思を持つている。

して見れば、原告が本件商標を石鹸に使用すれば、世人をしてその出所につき誤認を生ぜしめる虞が十分あり、審決には、原告のいうような違法はない(各証拠省略)。

三、理  由

一、原告主張の請求原因一、二の事実は、当事者間に争がない。

二、よつて原告の登録出願にかゝる商標が、審決のいうように、商標法第二条第一項第十一号の「商品の誤認又は混同を生ぜしある虞があるもの」に該当するかどうかを判断する。

原告の右商標が、「主婦の友」の文字を縦書にして構成され第四類の石鹸を指定商品としているものであることは、先に認定したところである。

一方東京都千代田区神田駿河台一丁目六番地の一訴外株式会社主婦之友社が、原告の登録出願以前から「主婦之友」の表題によるわが国有数の発行部数を有する婦人雑誌を発行していること及び同社が右雑誌発行のかたわら、主婦之友社代理部の名称を用いて、図書、繊維製品、薬品、化粧品等を、通信販売及び売場経営によつて、取扱販売をしていることは、当裁判所に顕著な事実であつて、その成立に争のない乙第一、二、三号証及び証人若林清の証言を綜合すれば、右取扱販売にかかる化粧品のうち石鹸は、大正十四年以来今日に至るまで引き続き取扱販売されていること及び右代理部における一年間の商品の取扱額は現在約一億二、三千万円、うち石鹸は大体百万円位であることを認めることができる。

して見れば原告が、前述のようにわが国有数の発行部数を有する婦人雑誌「主婦之友」を発行するかたわら、主婦之友社代理部の名称を用いて、永年にわたり、かつ相当に多量の図書、繊維製品、薬品、化粧品等の取扱販売をしている株式会社主婦之友社の、右著名な雑誌の表題に類似する商標「主婦の友」を、右代理部で取扱販売している商品と同一の商品である石鹸に使用するときは、一般世人は、右代理部において取扱販売されている石鹸自体に「主婦之友」の標章が使用されていると否とにかゝわらず、原告の販売する石鹸を、右株式会社主婦之友社が代理部において取扱販売している商品と誤まり考え、その出所の混同を生ずる虞が多分にあるものといわなければならない。尤も証人佐々隼太の証言及びその成立に争のない甲第三号証の一ないし三百六十二によれば、東京石鹸同業会その他石鹸販売業者の間においては、たとい原告の商標を石鹸に使用しても、前述するような混同誤認を生ずる虞のないことが認められるが、右甲第三号証中、需要者においても誤認混同を生ずるおそれがない旨を証明する部分は、当裁判所の信用し得ないところであつて、石鹸のように、広く一般家庭主婦が購買、消費する商品にあつては、これらの購買者について生ずる混同誤認のおそれは、一層重要視されなければならない。

原告は、株式会社主婦之友社の「主婦之友」の商標が著名であつても、その権利範囲は、厳格に雑誌自体に限られ、雑誌以外に拡張して適用することは許されないばかりでなく、原告の指定商品石鹸と右雑誌とは、その使用目的、製造から販売にいたるまで一切の取扱の経路を根本的に異にするものであるから、その出所について混同誤認を生ずるおそれがないと主張し、著名商標が、類別を異にする商品について登録を許可された幾多の登録例(甲第四号証から甲第二十一号証)を引用し、かつ原告の商標採択の理由を述べているが、雑誌に使用せられる著名な表題「主婦之友」と商品石鹸との間に存する前述のような特別密接な関連に基いて、商品の出所の混同誤認を生じさせる虞あるものと解せられる本件においては、右原告の主張は当らないし、また引用の登録例及び原告商標採択の理由も、未だ前記認定を覆させるに足りない。

三、以上の理由により、審決が原告の出願にかゝる商標は、商標法第二条第一項第十一号により登録をすることができないものとし、原告の抗告審判の請求を排斥したのは、結局相当であつて、原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 菅野次郎 原増司)

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